もやい結び(バウライン・ノット/Bowline knot)

もやい結びは運用範囲のひろい結索である。
船の作業で頻用されているほか、登山やレスキュー、高所作業でよく使われている。
ただし、カーンマントルロープの運用においては末端処理で補完する必要がある。
結索というものは、すばやく結べて大きな荷重がかかってもほどけず、しかも容易にほどくことができるのがいい、と言われてきた。
これらの条件をすべて満たすものとして、もやい結びはそのトップにあげられてきた。
事実、結びの王様の異名もある。だがループ負荷によってほどける欠点は、あまり知られていない。


ドイツの登山家、ピット・シューベルトは、その著書「生と死の分岐点」(山と渓谷社)で、1965年11月にウィーン南方のパイルシュタインで起きた死亡事故をとりあげ、もやい結びのループ負荷(その著書ではリング負荷という)の危険性をといた。
ループ負荷とは、もやい結びの間違った運用であり、あらぬ方向の力である。

        

だが正しい方向に荷重をかけた場合でも、結び目の内角が大きいと、ベクトルの作用によってそのループにはさらに大きな荷重がかかる。
そのためテンション(張る)とスラック(ゆるめる)を何度もくり返すと、やがてロープはほどけてしまう。
この危険なベクトルの作用も、ループ負荷と同様、結び目を破壊する方向の力にほかならない。
しょせん、もやい結びというものは、末端処理で補完しないと安心できない。
ビルのガラスクリーニングには、作業者がロープで下降して窓ガラスにアクセスするブランコ作業というのがある。
ブランコ作業はロープをビルの屋上の丸環に取りつけて行うものであるが、その丸環の設置間隔は約6mが標準である。
そのため二つの丸環の真ん中にロープを取りつけた場合、もやい結びの結び目の内角(θ)は必然的に大きくなってしまう。
したがって、たとえば東側の壁面を下降するときは、西側にある丸環を使用するなどして、結び目の内角を小さくする工夫が求められる。

と同時に、末端処理で補完することも忘れてはいけない。

    
また、もやい結びというものは、その結び目があらぬところに引っかかってもほどけるものである(図23)。
1992年にオーストリアで開催されたクライミング(岩登り)のワールドカップで、8mの高さから落ちたイタリア選手がハーネスに結んでいたロープがほどけて地上まで墜落し、両足を複雑骨折したことがあった。
この事故は、もやい結びが岩角に何度も引っかかってゆるんだのが原因ではないかと言われている。
それ以来、クライミングのコンペではもやい結びは禁止になり、8の字結びが使用されるようになった。
もやい結びは、くり返し注意するが、末端処理でバックアップしないと安心できない。
すばやく結ぶことができても、ほどけてしまっては何にもならない。
一方に「もやい結びをできずして職人というなかれ」といった風潮がみられる。
たしかに職人であるなら、もやい結びくらいちゃんとできなかったらしかたがないだろう。
だがほんとうは知っていれば得をする≠ニいった程度のものにすぎないのである。
「もやい結びは船を係留するときの結索である」などと言われているが、係留索は事前にアイ・スプライスを施しておくのがマニュアルである。
また「片手でも結べるので人命救助に必要である」という説もあるが、緊急時に片手で結ぶことなどできっこないだろう。
"片手もやい"は船乗りのお家芸で、溺者救助の名目で広まったものであるが、2次災害のおそれがあり、じっさいには使用しない。
ただ結索技術の練度向上が目的で行うのであれば、それなりに価値はあるだろう。
(以上、「ロープの結び方」より抜粋)

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